花鳥風月記

流れる水に文字を書く

森田浩之 「メディアスポーツ解体」(NHKブックス)

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スポーツとマスメディアの関係を明確な分析によって、その不穏な背景を指摘する。
スポーツを語る際、とかく記憶や印象に偏りがちになりそうなものを、
データや文献を豊富に使い、「裏付け」をしっかり行った上で論じている。

スポーツを扱うメディアやそれをみる国民性が持つ
ナショナリティジェンダーといった「陥穽」を指摘する。
普通・当たり前と思われていたようなことも、
この本を読むと、複雑な底流に触れることが出来る。
いや、スポーツの「ナラティブ(物語)」を愉しむ人は、
意外と複雑な背景を好むかもしれない。
それが、単純な動機(下心)によって振り回されていることを
知ってか知らずか…。

1点だけ、残念なところがあり、WBCのイチローの活躍が、
日本人のナショナリティを高め、彼がそのリーダーと写ったというくだりで
引用した新聞への投稿記事がいずれも産経新聞のものだったこと。(178ページ)
まあ、産経なら、載せるでしょ。
ここはできれば他の新聞の投稿も含めて分析して欲しかった。
勿論、その後の「諸君!」のインタビューに答えるイチローのバランス感覚を
しっかりと書いてあったのは、良しとして…。

この本では、「メディアスポーツ」と表されるような、
メディアとスポーツの合体が、様々なイメージを作り上げていくことに
ある種の「危機感」を抱くよう、警告している、と感じた。

しかし、結語にあるように、
その答えは分かるようでいて、分かりにくい存在なのかもしれない。
「しかし、メディアスポーツにその物語を語らせているのは誰なのか」