花鳥風月記

流れる水に文字を書く

太秦ライムライト

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六本木シネマートにて。
前々から観たいと思っていて、タイミングを逸していた。
昼過ぎに、やっていることを知って、六本木に直行。
金曜日までだった。ふう、ギリギリセーフ。

六本木シネマートは初めて行ったが、
何やら韓流グッズが沢山、というか
上映作品やら試写会やらあるようで…。
売れ線を意識しているのだろうか。

「五万回斬られた男」として有名な福本清三が主人公。
彼の人生をなぞるような設定が、心にくい。

時代遅れと見られるような「時代劇」に転機が訪れる。
長寿番組の打ち切り後、高齢となった大部屋俳優は、
現代ドラマの「仕出し(エキストラ)」すらままならない。
そんな状況下でも、殺陣の練習は怠らず、人知れず木刀を振る。

やがて駆け出しの女優の卵が殺陣を習い始めたことをきっかけに
若い役者との交流も進む。
しかし、現実はシビアで、
古いものはどんどん片付けられるようになるのと同時に、
映像の世界から遠ざかった主人公、香美山清一は
太秦に併設された時代劇ショーで素人相手の仕事をする。
やがてそれも、病気によって引退を余儀なくされた。
女優の卵はやがて売れっ子となり、
改めて時代劇を、そして斬られ役のシーンが巡ってくる。

時代と資本、そして役者世界のせめぎあい、
そして殺陣の鮮やかさが印象的だった。

撮影監督がハリウッドで活動する外国人ということもあってか、
映像のナラティブ(文体)が違っている感じがした。
むしろ日本人でないがゆえに、日本画らしい「引き算の美学」を感じた。

福本のセリフは、極めて少ない。
良く言えば、クリント・イーストウッド並みの渋さを演出しているが、
セリフが長くなればなるほど、彼自身の像から離れたものになるだろう。

決して場面展開が多いわけではないが、
昭和から平成への「うつろい」と「ペーソス」を感じた。

ALWAYS三丁目云々のような胡散臭さではなく、
「泥の河」にも通底するような、かといってそれよりも暖かく明るい
懐かしい一場面を感じさせるものだった。

それは、チャップリンの「ライムライト」を下敷きにしているからこそ、
という気もした。

今年は数は多くはないが、観た中で最も良かった。