花鳥風月記

流れる水に文字を書く

母と暮らせば

大阪駅のステーションシネマにて。
どこに行ってもコーヒーと映画と酒を楽しむ、
ということは変わらないため、2泊3日の大阪行きでも
映画を3本観た。その1本目。

井上ひさしの「父と暮らせば」の対になる作品。
井上が亡くなる前に、その思いがあったということで、
山田洋次が作り上げた。

「父と―」では父が霊となって娘の前に現れ、
「母と―」では、息子が霊となって母の前に現れる。
設定の「対」は徹底している。

「父と―」が広島で、「母と―」が長崎。
「怒りの広島、祈りの長崎」ということがイメージできた作品。

そのせいか、かなり抑揚をおさえた作風になっていた。
そう、かつての日本映画の奥ゆかしさも備えて…。

医学生だった息子を失い、3年経ってその息子が霊となって現れた。
身寄りのなくなった母に献身的に支えた許嫁も
いつしか忘却と新たな出会いが生まれる。

忘れること、生きている人の幸せに羨望と焦燥を感じつつも、
やがてそれを受け入れていく物語となっている。

最後のシーンは、その「瞬間」を描くにはなかなか難しいところもあったが、
あらゆる意味での「レクイエム」であったといえるだろう。

そういえば浅野忠信は、「父と―」でも新たに現れる恋の相手だったな…。